為替レートにライバル出現!
金融機関に、「なぜ富裕層・超富裕層ビジネスに積極的に取り組んでいるのか」「そのビジネス上の意味は何なのか」ということを改めて問うと、明確に即答できないことが多いだろう。
それは、多くの金融機関にとって、日本の富裕層・超富裕層の実態が断片的にしかわかっていないこと、富裕層・超富裕層ビジネスで先行する欧米諸国と比較して日本の金融制度や顧客のニーズ・行動のギャップが大きいことに原因があると考えられる。
そこで、本章では、まず、金融機関にとっての富裕層・超富裕層ビジネスの意味を考えていきたい。
本書では、「超富裕層」を5億円以上の世帯金融資産を保有する層、「富裕層」を1億〜5億円の世帯金融資産を保有する層と定義する。
また、5〇〇〇万〜 1億円を「準富裕層」、3000万〜5000万円未満を「アッパーマス層」、3000万円未満を「マス層」と定義する。
ここでいう金融資産とは、純金融資産のことを指す。
純金融資産とは、預貯金、株式、1時払い生命・年金保険などの「資産」(不動産などの実物資産は含めない)からローンなどの「負債」を差し引いた金額を指す。
本書ではこれ以降、「金融資産」と表記した場合は、とくに断りがない限り純金融資産を意味する。
また、たとえば「富裕層」と書いた場合でもその表す意味が場面により異なることに留意してほしい。
本来、「層」とはセグメント(集団)を意味する言葉である。
しかし本書では、アンケートやインタビューの結果など個々人の特徴について論じる場面においては、「富裕層」は1億〜5億円の世帯金融資産を主に管理・運用する「人」を表す。
また、市場規模を論ずる際には、推計方法の都合上、保有する金融資産が1億〜5億円の「世帯」を表す。
これは、「超富裕層」についても同様である。
本書では、日本の富裕層・超富裕層マーケットを、保有する金融資産の大きさと居住する地域によって、三大都市圏の超富裕層、地方圏の超富裕層、三大都市圏の富裕層、地方圏の富裕層の四つに分ける。
まず、なぜこの四つのマーケットに分類するかを説明していこう。
富裕層も超富裕層も、「お金持ち」であることに変わりはないが、その職業には大きな遠いがある。
金融資産を5億円以上保有する超富裕層の主な職業は、上場企業オーナー経営者やその創業家1族、非上場金業オーナー経営者、大病院の経営者、不動産オーナーなどである。
そのなかでも、上場・非上場を合わせた企業のオーナー経営者が多数を占める。
なぜ、企業のオーナー経営者(資本家)が超富裕層に多いのか。
企業のオーナー経営者以外で、高所得の職業といえば、開業医、公認会計士、税理士、弁護士、大企業の役員、外資系金融機関の専門職などである。
これらは数千万円から数億円の高所得を得るが、そのフロー収入だけでは、高い税率と社会的なステータスを維持するコストのため、5億円以上の資産を貯めて超富裕層になるのは、1部にとどまる。
たとえば、開業医などの高所得の職業が何世代か続けば、その1族が超富裕層になることは十分可能だが、国際的に高い税率といわれる日本の相続税制度の下では、自分の労働以外でフロー収入を生み出す企業や不動産を所有しなければ、世代を超えて資産家であり続けることは難しい。
ゆえに、超富裕層の大半は、資産・不動産管理会社を含む企業のオーナー経営者が占めるようになるのである。
それに対して、金融資産1億〜5億円の富裕層の主な職業は、非上場企業オーナー経営者、不動産オーナーに加えて、開業医、プロフェッショナル(公認会計士、税理士、弁護士など、自営業などさまざまである。
また、給与所得者・主婦が、遺産相続や資産の運用に成功して富裕層になることもめずらしくない。
このように、金融資産5億円を境にして、職業の構成が大きく変わる。
そして、この職業の違いが、資産形成の方法、仕事や生活に対する考え方、ファミリーの行動特性に大きな影響を与える。
つまり、富裕層マーケットと超富裕層マーケットは、似て非なるマーケットなのである。
三大都市圏の富裕層・超富裕層マーケットには、圏内系・外資系、銀行・信託・証券など、あらゆる金融機関がひしめいている。
主な金融機関をあげてみると、メガバンク(MT銀行、M銀行、MS銀行)、大手証券(N証券、D証券、N証券)、信託銀行(MU信託銀行、SS銀行、TMM信託銀行などで旧T信銀(S銀行、A銀行)、R銀行、有力地銀(Y銀行、T銀行などで銀行系証券(MU証券、S証券など)が、富裕層・超富裕層向けに幅広くサービスを提供している。
さらに、超富裕層に限定したサービスを展開する外資系銀行/証券(UBS銀行、HSBC銀行、SG信託銀行などでMUファイナンシャル・グループと合弁会社をつくったM日本証券、N証券をグループの傘下におさめたシティバンク銀行なども、主要な拠点を三大都市圏に持っている。
これに対して、地方圏における金融機関の競合は、三大都市圏よりシンプルである。
地方圏の富裕層・超富裕層は、地方銀行(以下、地銀)と大手証券を、個人資産の管理・運用のメイン金融機関としている。
1方で、メガバンクや外資系銀行/証券の存在感は薄い。
地方圏において、地銀のシェアが高いのは、特定の地域に経営資源(店舗、人員、販促費用など)を集中的に投下し、地域での営業サービスの密度や知名度・企業イメージを集中的に高める「エリアドミナント」に成功しているからである。
地銀に対して高いロイヤリティを持つ富裕層・超富裕層の顧客を奪い取るのは、全国的なブランド力を持つ金融機関でも容易なことではない。
このように、三大都市圏と地方圏では「戦う相手」が違うため、「戦い方」も変えなければならない。
競合は多いが、ビジネス上の機会も多い三大都市圏を攻めるのか、いったん入り込むと排他的なビジネスが期待できる地方圏を攻めるのかが、富裕層・超富裕層ビジネスの戦略を立てるうえでの最初の分岐点である。
次に、富裕層・超富裕層ビジネスの主戦場を明らかにするために、金融資産5億円の境界線(上下で職業が異なる)と三大都市圏と地方圏の境界線(左右で競合が異なる)の二つで富裕層・超富裕層マーケットを分け、それぞれのマーケットの特徴を考えてみよう。
第1番目は、三大都市圏の超富裕層マーケットである。
ここは、PBサービスの最大の激戦区である。
このマーケットには競合が多く、顧客が多くの金融機関のサービスを比較できる。
よって、金融機関のブランド力、商品組成・調達力、情報提供力、顧客の抱える課題の解決力、担当者の知識・人間性・対応力のすべてにおいて、中途半端な競争力では生き残れない「激戦マーケット」である。
このマーケットにおける中心ターゲットは、企業のオーナー経営者である。
なぜなら、超富裕層のなかでも企業のオーナー経営者は、彼らの保有する法人の資金調達や資産運用、オーナー個人やファミリーの資産運用など、1人の超富裕層の顧客から複数のビジネスチャンスが生まれる魅力があるからである。
次に、地方圏の超富裕層マーケットを見てみよう。
地方圏には、メガバンクや外資系銀行/証券はあまり進出していない。
地元でのブランド力や地域経済界におけるステータスを持つ地銀と、運用志向の強い超富裕層をおさえている大手証券が二大勢力である。
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